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院長ブログ

脈の乱れと脳卒中

 電車に乗ったところ、ある中刷り広告が目につきました。真ん中に大きく「ハートのビートを聞こうぜ!」とありました。これは日本心臓財団による心房細動の啓発キャンペーンです(2023年7月から1年間)。脈拍をリズムとして表現し、DJ KOOさんが呼びかけるものです。テレビやラジオでも流れているそうです。

 心房細動は代表的な不整脈の一つであり、心臓の機能低下(心不全)はもとより、脳卒中の原因になることで注目されています。心臓は毎日約10万回拍動しますが、このリズムは通常右心房近くの洞結節というところが司っています。ところが別のところ、具体的には肺から心臓に入る血管(肺静脈)の左心房に近いところで異常な電気信号が発すると心房細動という状態に陥ります。この時、文字通り心房の壁が細かく震え、内部の血流がうっ滞することにより、左心房や左心耳の壁で血液が凝固し、その凝血塊が脳に飛ぶと脳卒中(血栓性脳梗塞)を引き起こします。脳卒中は手足の麻痺や言葉の障害、そして生命の危険につながる重大な病気です。心臓でできた凝血塊はまれには腸への動脈を詰まらせて腸の血栓塞栓症を起こします。

 心房細動には短時間だけの発作性心房細動と持続性の心房細動があります。心房細動は心電図で診断されますが、正確な診断には精密検査を要します。抗凝固剤を内服することによって血栓を予防し、脈が多すぎる場合には薬剤でコントロールします。しかし根本的な治療としては異常な電気信号が発する場所を手足の血管から挿入したカテーテルで電気的に焼いたり凍結させたりする「カテーテルアブレーション」や血栓ができる場所であり心房細動の発生場所にもなる左心耳を切り取る手術があります。さらにはカテーテルでWATCHMANデバイスという器具を挿入して左心耳を閉鎖する方法などもあり、複数の選択肢から適したものが専門医によって選ばれます。

 心房細動は動悸などの自覚症状をきっかけに心電図をとって診断されることもありますが、無症状の状態で健診で見つかることもあります。今回の啓発活動の広告には「CHECK 心房細動!」というスローガンとともに「簡単セルフチェック! EZ DO 検脈!」とも謳われています。検脈とは脈拍触診のことであり、通常左手首の動脈を触れて、脈のリズムや強さを診ることです。このキャンペーンでは自分で検脈をして乱れていたら心房細動を(も)疑って医療機関を受診することを勧めています。ただし、この広告にも注意書きがあるように脈の乱れのすべてが心房細動ではなく、無症状の心房細動もあります。やはり定期的な心電図検査はお勧めです。発作性心房細動の場合は脈の乱れがない時の心電図には異常がないため、疑わしい場合は24時間心電図(ホルター心電図)という検査を行います。さらに、24時間の検査で不十分な場合は最大7日間測定できる機器(薄いテープ状のもの)を導入している医療機関もあります。いずれの機器も日常生活を普段通り送りながら装着するものです。

 心房細動は脳卒中以外にも認知症のリスクも上げるようです。今回のキャンペーンが、重大な病気の予防につながることを期待します。