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院長ブログ

メチル化とビタミン

「メチル化」という言葉をお聞きになったことはあるでしょうか。メチル化とは「メチル基」という化学構造が蛋白質やDNAなどの大きな分子に結合することです。メチル基とは炭素原子が持つ4つ腕のうち3つの腕に1つずつ水素がついたもので、もう1つの腕が残っているものです。この腕が蛋白質やDNAにつながります。なお、その腕につながるものが水素原子であるのが、燃料にもなるメタン(ガス)です。また、酸素原子と水素原子が結合したもの(水酸基)である場合はアルコールの一種であるメタノールです。

 メチル化は1つの炭素原子がある物質から他の物質に移動する反応のひとつです(他の例としてはカルボキシル化があります)。最近メチル化が注目される理由はメチル化が生命の設計図であるDNAからの情報読み取りに関連しているからでしょう。4種類の核酸が並んでできたDNA上の「設計図」がRNAに読み取られ、そこから蛋白質が合成されます。どの設計図がいつ読み取られるかということが、生命活動や病気の成り立ちにかかわってきます。この読み取り作業にはさまざまな仕組みが関わっていますが、そのうちの1つがDNAやヒストンという蛋白質のメチル化です。

 DNAのメチル化は本につける「付箋」に例えられます。この付箋は読みたいところに付けられますし、読まないでおくところにも付けられます。DNAのメチル化は加齢や生活習慣の積み重なりによって決定されるため、メチル化のパターンを解析してその人の「生物学的年齢」の推測することが始まっています。

 ヒストンはDNAという長い2重らせん鎖を巻き取るように整理している蛋白質です。この巻き取り方もDNAからの情報読み取りに関わります。DNAのどの部分を巻き取っておくか、あるいは巻き取らずにおくか、このことがDNAからの情報読み取りを調整します。ヒストンのメチル化はヒストンの働きを調整する代表的なメカニズムです。

 DNA上の情報全体をゲノムと言いますが、遺伝子情報そのものは変えずにそれを読みとるか読み取らないかの制御行われている仕組みはエピゲノムと呼ばれます。

 さて、メチル化に使われるメチル基はどこから来るでしょうか。実はこのメチル基はアミノ酸であるメチオニンから供給されます。メチオニンはヒトの体内では合成できない9つの「必須アミノ酸」の一つです。メチオニンはSAM(S-アデノシルメチオニン)という物質に変わることによってDNAやヒストンにメチル基を渡せる形になります。SAMからメチル基が外れたものがSAH(S-アデノシルホモシステイン)であり、SAHはさらにホモシステインに変化します。つまり、メチオニンのメチル基がメチル化に使われ、メチオニンはホモシステインに変化します。このホモシステインが血液中に増えると動脈硬化、認知症、高血圧、骨の弱さなど加齢に伴って増加する病態が進行しやすくなることが知られており、ホモシステインが増えすぎないようにする仕組みが必要です。

我々の身体にはホモシステインをもとの物質であるメチオニンへとリサイクルしたり、システインという他のアミノ酸へと変換したりする仕組みが備わっています。この仕組みが働くために必要なのがビタミンです。メチオニンへのリサイクルには葉酸とビタミンB12が、システインへの変換にはビタミンB6が必要です。これらのビタミンが不足するとホモシステインが増加するだけではなく、DNAやヒストンのメチル化にも影響が及びます。

葉酸、ビタミンB12、ビタミンB6はいずれもビタミンB群に属します。葉酸やビタミンB12は造血や神経の働きに重要であり、ビタミンB6はエネルギー代謝で働く酵素などを助けます。これらの作用に加えてメチオニン・ホモシステイン代謝を通してDNAの読み取りにもかかわる関わる重要なビタミン群ですから、バランス良く摂ることが大切です。なお、ほうれん草は葉酸を多く含む食材ですが、ベタインという物質も多く含まれています。ベタインはホモシステインをメチオニンへとリサイクルさせる酵素を助けますがビタミンB群には属しません。

大事なビタミンがしっかり摂れているか否かは食事の内容からある程度推測できますが、血液検査によってより具体的に充足状態が把握できます。葉酸、ビタミンB12、ビタミンB6、総ホモシステインの血中濃度を測定し、栄養指導やサプリメントの調整に役立てています。