新着情報

院長ブログ

アンモニアを運搬するアミノ酸と細胞老化

 身体の中でアミノ酸が分解される時やアミノ酸をもとに他の物質が作れる時にアンモニアが発生します。身体のいろいろな所で発生するアンモニアは腸から入ってくるアンモニアと同様に最終的には肝臓の尿素サイクルで尿素に変えられるのですが、安全に肝臓まで運搬されなければなりません。そこで使われるのがアンモニアを運搬するアミノ酸です。

 アミノ酸にはタンパク質を構成する20種類とそれ以外のものがありますが、これらの中でアンモニアを運搬するアミノ酸がグルタミン酸です。グルタミン酸はアンモニアを拾いあげてグルタミンというアミノ酸に変化し、この形で肝臓に移動します。

 たとえは骨髄で赤血球ができる時には大量のアンモニアが発生します。赤血球に含まれるヘモグロビンの中でも酸素のやり取りに直接かかわる構造がヘムです。このヘムは5-アミノレブリン酸(5-ALA)というアミノ酸が4つ合わさってできます。この反応ではヘム分子が1つ作られるごとにアンモニア分子が4つ発生します。

このアンモニアをグルタミン酸がグルタミン合成酵素の働きで拾い上げてグルタミンになり、これが血中を移動して肝臓に向かうのです。肝臓ではグルタミナーゼという酵素によってグルタミンから「放出」されたアンモニアは尿素サイクルに入って無害な尿素になります(グルタミンはグルタミン酸に戻ります)。ちなみにアミノ酸の中で、血中濃度が最も高いのはグルタミンです。身体中からアンモニアを回収している様子が想像できます。そもそも肝臓から離れた骨髄で造血ができるのはグルタミン酸によるアンモニア回収システムがあるからこそ、とも言えます。

 グルタミンからアンモニアが離れる反応は、肝臓で尿素サイクルに入れる時だけではなく、アンモニアが「活用」される時にも使われます。活用の場の一つは身体の中で炭水化物からアミノ酸が合成される場です。そしてもう一つは最近注目されている細胞老化の制御という場面です。

 老化した細胞はそのまま放っておくと慢性炎症のもとになり、臓器や個体の老化につながるという考え方があります。このことから老化した細胞を取り除くこと(セノリティック、senolytic)が「抗加齢」に役立つのではないかという分野の研究が活発です。セノリティックの標的の一つとしてグルタミナーゼが注目されています。  

老化細胞は細胞内酸化に弱いのですが、アンモニアは細胞内酸化を中和して老化細胞を生き延びさせる作用をもっているそうです。そこで、グルタミナーゼを阻害する薬剤を使って細胞内のアンモニアを低下させることによって細胞内酸化に弱い老化細胞だけを細胞死に導き、臓器や個体を守るという考え方です。なお、セノリティックス薬としては、分子標的薬やワクチン、フラボノイドの一種など、さまざまなものが検討されています。

 アンモニアは地球環境や体内環境のみならず、細胞内環境の点からも注目されていきそうです。