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院長ブログ

身近で謎の糖鎖

 ブドウ糖と果糖の関係を前々回のブログで取り上げましたが、今回も糖質の話題です。

糖質はエネルギー源として使われる以外にも、身体の構成成分にもなります。その一例が細胞表面にある糖鎖です。糖鎖とはその名の通り複数の糖が鎖のようにつながったものです。核酸がつながったものがDNAやRNA、アミノ酸がつながったものがタンパク質、そして糖がつながったものが糖鎖です。細胞膜についている糖鎖についてはその機能や病気との関連が分かっていないことが多く、つい最近(2023年5月26日)の新聞報道で東海国立大学機構を中心とする研究グループの糖鎖研究に大きな予算がつけられたことが伝えられています。

 さて、血液型には何種類もありますが代表的な血液型であるABO式血液型は赤血球表面にある糖鎖の一番端に付く一つの糖で決定されます。この糖鎖がN-アセチルガラクトサミン(図の黄色丸)だとA型、ガラクトース(図の緑色丸)だとB型に、両方の糖鎖があるとAB型になります。N-アセチルグルコサミンもガラクトースもついていないとO型です。どちらの糖が付くか、あるいはつかないかは糖鎖に糖をつける酵素の差で決まります。この酵素(糖転移酵素)のもとになる遺伝子に違いがあるため、ABO式血液型が遺伝するのです。

起源となる遺伝子はA型遺伝子、つまりN-アセチルグルコサミンを付ける酵素を作り出す遺伝子であり、進化の過程でこの遺伝子の一部に変化(変異)が起こって、ガラクトースを付ける酵素を作る遺伝子になったのがB型遺伝子です。両方の遺伝子を持っているとAB型で、これらの遺伝子の機能がないとO型になるのです。遺伝子は父親と母親から受け継がれるので、A型にはAA型とAO型が、B型にはBB型とBO型があります。O型はOO型、AB型はAB型のみです。このように1つの糖の在り方でABO式血液型が決まることは改めて驚くべきことです。

 ABO式血液型はヒト以外の霊長類にもあるものの分布は大きく異なります。ABO式血液型を決める遺伝子は何億年も前からあったことが想定されていますが、遺伝子としての進化には一般的な法則が当てはまらないことも指摘されています。

その進化と感染症などとの関連も検討されてきましたが結論にはいたっていません。ABO式血液型がランドスタイナーによって発見されたのは120年以上前の1901年ですが、糖鎖にはまだまだ謎が潜んでいます。

なお、図の赤色丸はABO式血液型を決める糖鎖の共通部分の横についているフコースという糖です。

糖鎖図