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ビタミンが必要なビタミン ー葉酸ー
ビタミンは身体に必要な栄養素ですが、ビタミンとして働くために他のビタミンが必要なビタミンがあります。その代表がビタミンBの一つである葉酸です。
ビタミンBは8つのビタミンからなる群(ぐん)を形成しています。ビタミンB1からB12まで12種類のビタミンBがあるわけではなく、「欠番」があります。歴史的には、水溶性で糖質をエネルギーに変えることに関連する化合物をビタミンB群としたため、多くの化合物がB群として登録されましたが、検証の結果整理され、ビタミンB1からB12のうち、B4、B8、B10、B11が欠番になっています。現在ビタミンB群は、糖代謝のみならず、脂質代謝、そして「一炭素転移」といった3つを受け持っているビタミンの群と言えます。この中で「一炭素転移」は聞きなれない言葉かと思います。一炭素転移とは文字通り、ある分子から他の分子に炭素を一つ受け渡す反応です。そして一炭素転移に不可欠なビタミンが葉酸です。
葉酸という名前は最初にほうれん草から抽出されたことに由来します。ラテン語の「葉」を意味する「folium」と「酸」を意味する「acid」からfolic acidと命名され、日本語では漢字が当てられている唯一のビタミンです。B1(チアミン)、B2(リボフラビン)、B6(ピリドキサールなど)、B12(コバラミン)はビタミンの番号で呼ばれることが多いですが、ナイアシン(ビタミンB3)、パントテン酸(ビタミンB5)、ビオチン(ビタミンB7)、葉酸(ビタミンB9)は化合物名が汎用されています。
葉酸の欠乏は巨赤芽球性貧血や胎生期の神経管閉鎖障害をもたらすことが有名ですが、近年は葉酸不足がもたらす血中ホモシステイン濃度の上昇と動脈硬化や認知症、骨の弱さなどとの関連が注目されています。ホモシステインはアミノ酸の一つであるメチオニンの代謝産物です。ホモシステインの分子に葉酸が運ぶ炭素が一つ移動する(=一炭素転移)とホモシステインはメチオニンに変化します。この反応が滞ると血中のホモシステインが増加してさまざまな支障がもたらされると考えられています。葉酸の一炭素転移にはMTHFRという酵素が働きますが、さらにビタミンB群の他のメンバーであるビタミンB12やビタミンB6が欠かせません。葉酸が「ビタミンが必要なビタミン」である所以です。MTHFRという酵素の強さには個人差があるのですが、その説明は別の機会に。
実は葉酸は単一の物質ではありません。葉酸の基本構造にアミノ酸のグルタミン酸がついているのですがその数はさまざまです。食品中の葉酸にはグルタミン酸が複数ついていますが、消化管から吸収されるために酵素によってグルタミン酸が1つの状態になります。肝臓でまた複数のグルタミン酸がついて貯蔵されますが、そこから体内に出ていく時にはまたグルタミン酸は1つの状態に、と代謝面もユニークなビタミンです。
葉酸が関わる一炭素転移はホモシステイン代謝のみならず核酸合成においても重要な役割をはたしており、葉酸の働きを抑える薬剤(葉酸拮抗薬)であるメトトレキセートがリウマチやがんの治療に用いられています。
昔の漫画でポパイがほうれん草の缶詰を食べて悪者(?)を倒すシーンがありましたが、葉酸の十分な補充は超高齢社会の大事な助っ人であるとも言えるでしょう。健康院クリニックの血液検査では血中の葉酸、ビタミンB12、ホモシステインを測定し、栄養カウンセリングやサプリメントの調整に役立てています。