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院長ブログ

難しい病名を見て

 掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)という皮膚の病気があります。掌蹠膿疱症はその名の通り手のひら(掌)や足の裏(蹠)に膿疱という「うみ」の入った皮疹ができる病気です。感染症ではなく、周期的に繰り返すことがあります。10~35%の方に骨関節炎が合併することがあり、首の付け根や背骨、腰の痛みにつながります。この状態を掌蹠膿疱症性骨関節炎と言います。内科医である私がこの病気を拝見することはまれで、おそらくお2人拝見しただけかと思います。この病名を見ると関節症状をお持ちの方では手のひらや足の裏にも注意しなければならないことを思い返します。 

 掌蹠膿疱症は読み方が難しい病名の一つです。難しいだけに印象深い病名です。他にも胼胝(べんち=皮膚のたこ)や今では一般的になっている骨粗鬆症(こつそしょうしょう)なども難しい病名に入るでしょう。ここでは括弧の中に読み方を入れていますが、印刷物では、小さな文字で振仮名がつけられます。

 振仮名はルビとも呼ばれますが、ルビは宝石のルビーに由来することを最近知りました。活版印刷のためには活字が組まれますが、明治の初期に振仮名に使われていた活字の大きさが7号(8級、5.25ポイント)でした。19世紀後半のイギリスでは活字の大きさに応じて宝石の名前が付けられており、5.5ポイントの活字がルビーと呼ばれていました。これが5.25ポイントに最も近いことから7号活字がルビーと呼ばれ、これがルビとなりました。ちなみに4.5ポイントはダイヤモンド、5ポイントはパール、6.5ポイントはエメラルドと呼ばれていたそうです。振仮名の活字がもう少し小さければルビではなくパル(?)だったのかもしれません。

 振仮名はルビと呼ばれる前から日本の文化に根付いていました。古文の読み方や歌舞伎の外題、秋桜にコスモスと振仮名を付けること、などなど。振仮名は単に難しい漢字の読み方を示す以上の役割を果たしています。日本語は書き手の意図に応じて一つの言葉に複数の意味をこめることができる言語でもあるようです(参照:今野真二著「振仮名の歴史」)。