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院長ブログ

もう一つの“グラム”と腸内細菌叢

 前回のブログでアルコール飲料のアルコール含量表示が“グラム”による重量表示になってきていることに触れました。“グラム”は重さの単位ですが医療の現場ではもう一つの意味で使われます。それは細菌を分類する時です。病原菌の種類を特定するためには細菌を染色して顕微鏡で観察します。この時の染色方法のうち代表的なものがグラム染色です。この方法は1884年にデンマークのハンス・グラムによって発明されたもので、その後改良されて現在に至っています。グラム染色で染まる菌がグラム陽性菌、染まらない菌がグラム陰性菌です。染まる場合は紫色になります。染まるか染まらないかの違いは細菌の細胞壁構造の違いによるものなので、細菌を本質的なところで大きく2分する方法とも言えます。染色して顕微鏡で観察するわけですから、細菌の形や集まり方も分かります。グラム陽性か陰性か、丸いか棒状か(球菌か桿菌か)、どのような並びかたか、これらの組み合わせで多くの菌(すべてではありません)が分類されます。ブドウ球菌や連鎖球菌などはグラム陽性球菌、クロストリジウム族や放線菌などはグラム陽性桿菌、ナイセリア族などはグラム陰性球菌、大腸菌や緑膿菌などはグラム陰性桿菌です。ちなみにビフィズス菌は放線菌の仲間ですから、グラム陽性桿菌です。

 近年我々の身体と共存する細菌、特に腸内の細菌が注目されています。腸管には100兆から1000兆個にもおよぶ細菌が存在し、その重さは1kg以上1.5kgにも達します。細胞の規模からすると肝臓と同程度の臓器と言ってもよいほどです。腸内には多様な細菌が「お花畑」のように広がっていることから腸内の細菌は腸内フローラまたは腸内細菌叢と言われています。もちろんこれらの菌をグラム染色によって分類は可能ですが、腸内細菌叢と動脈硬化やがんなどさまざまな疾患との関連が研究されるようになった背景には遺伝子解析による細菌検査の進歩があります。現在は次世代シーケンサーという高速の分析機器が用いられ、細菌の種類のみならず、機能の面からも検査することができます。例えば、健康長寿にもつながる短鎖脂肪酸を作る菌や特に女性の健康に役立つエクオールを作る菌がいるかなども分かります。また、どのくらい多くの種類の細菌がいるか、つまり細菌の“多様性”自体が腸内細菌叢の評価指標になっています。以前は「善玉菌」・「悪玉菌」という言葉が使われていましたが、今はそのような区別はされないようになってきました。ただし、食中毒や肺炎などの感染症を起こす病原菌はいうまでもなく「悪玉」であり、それらの診断にはグラム染色が威力を発揮します。次世代シーケンサーを用いた腸内細菌叢の検査は便潜血検査で用いるほどの少量の便を用いて行うことができます。