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院長ブログ

がん予防と食生活

 がんをはじめする生活習慣病の発症には身体の個人差に加えて、環境の因子や生活習慣など多くの要因がかかわるため、「がん予防に役立つ食事は?」という問いに答えるためには大規模かつ長期にわたる調査が必要です。

 日本においては国立がん研究センターを中心とした研究グループがさまざまな疫学研究の成果を取りまとめ、現時点で推奨される食生活を提示しています(国立がん研究センターがん対策研究所 予防関連プロジェクト. 日本人のためのがん予防法. 2022年8月3日改訂版.)。それによりますと、がんの発症についてリスク因子が「確実」、「ほぼ確実」、「可能性あり」に、がんの予防因子が「ほぼ確実」と「可能性あり」に分類されています。残念ながら現時点では「確実」に分類される予防因子はないようです。「確実」または「ほぼ確実」なリスク因子としては、アルコール、肥満、食塩・塩蔵食品、熱い飲食物が、「ほぼ確実」な予防因子としては身体活動、野菜、果物、コーヒーが挙げられています。ただし、「確実」とは集団について統計学的に「確実」であることを指し、個人ごとにその因子だけでがんが発症したり予防されたりすることを示すものではありません。その一方、「可能性あり」とされる予防因子でも個人にとっては有効であるものもあるでしょう。

「確実」と「ほぼ確実」の要因について、がんの部位別に見てみます。食道についてはアルコールが「確実」なリスク因子、熱い飲食物が「ほぼ確実」なリスク因子、野菜と果物が「ほぼ確実」な予防因子です。胃についてはアルコール(男性)と食塩・塩蔵食品が「ほぼ確実」なリスク因子です。大腸についてはアルコールが「確実」なリスク因子、肥満と高身長が「ほぼ確実」なリスク因子、身体活動が「ほぼ確実」な予防因子です。肝臓についてはアルコールと肥満が「確実」なリスク因子、コーヒーが「ほぼ確実」な予防因子です。乳腺については閉経後女性において肥満が「確実」なリスク因子、閉経前女性においてアルコールが「ほぼ確実」なリスク因子とされています。

 現時点で日本人のためのがん予防法として推奨されることは、①アルコールはほどほどにする、②塩蔵食品、食塩の摂取は最小限にする、③野菜や果物不足にならない、④飲食物を熱い状態で摂らない、⑤肥満を防ぐ、ということになりそうです。このうち④以外はがん以外の生活習慣病の予防法にも共通します。なお、リスク因子や予防因子については日本人での評価結果と国際的な評価結果とで異なるものもあります。