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院長ブログ

普段通りに歩くこと

 健康寿命延伸のためフレイル対策の重要性が増しています。フレイルとは「要介護状態」になる手前のことであり、要介護状態を予防するチャンスでもあります。国や自治体でも2020年からフレイル健診が始まっています。

 フレイルの評価((J-CHS基準)には5つの評価項目が含まれています。体重減少(6か月で2~3kg以上の体重減少)、握力(男性26kg未満、女性17kg未満)、倦怠感(ここ2週間わけもなく疲れたような感じがする)、活動量(①軽い運動・体操をしていますか?、②定期的な運動・スポーツをしていますか?の2つの質問のいずれも「していない」と回答)、そして通常歩行速度が秒速1メートル未満であることです。これらのうち3つ以上が当てはまるとフレイル、1か2つでプレフレイルと判定されます。

 握力や背筋力など、筋力の測定は目いっぱい頑張った最大の数値が使われますから、通常歩行速度、つまり「普段通りに」歩く速さというのは身体能力の目安としてはユニークなものとも言えるでしょう。歩行速度は歩幅と歩くリズムで決まります。歩くリズムの中に含まれますが、歩行中に両足が地面に同時についている時間の割合(両脚支持割合)も歩行速度に影響するそうです。これらの要素に対して筋力、関節の状態、神経機能(精神面も含めて)などが関わります。さらに生活習慣や加齢の影響が加わって決まる歩行速度は身体機能の総合指標です。

 歩くことはもちろん随意運動ですが、歩く時に歩行に関わる個々の筋肉に対して意識的に命令を出してはいるわけではありません。中枢からの指令が筋肉に届くとともに筋肉中の「センサー」からの情報が脊髄中の中枢パターン発生器で処理され、それぞれの筋肉への運動神経ニューロンに指示が流れるようです。その中で歩幅と歩くリズムが決定されます。

 歩くリズムはケイデンス(cadence)と称されます。ケイデンスは一般にはあまりなじみがない言葉ですが、歩行の分野では1分間の歩数を表す重要な用語です。ケイデンスはもともと「音楽での動きの結末」、つまり「落ちること」に由来するものだそうですが、自転車のペダルをこぐ速度を表す用語にもなっています。普段通りに歩く時のケイデンスはどのように決定されているのでしょうか。興味の尽きないところです。