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院長ブログ

味覚と亜鉛

 視覚は見ること、聴覚は聴くこと、嗅覚は嗅ぐこと、触覚は触ること、そして味覚は味わうことです。「味わう」と言うと良い味を楽しむというイメージがありますが、味覚で受容する味は甘味、うま味、苦味、酸味、塩味の5つの基本味であり、このうち苦味や酸味は本来毒素や腐敗を知らせる好ましくない味です。一方、甘味は糖質、うま味はアミノ酸といったカロリー源を知らせる好ましい味です。塩味はナトリウムを適切に摂ることや摂りすぎを避けることにつながります。ただし、ちょっとした苦味や酸味はおいしさの一部になりますから、ここで言う「うま味」とおいしさは分けて考えられますね。

 味覚は舌、軟口蓋、咽頭の表面にある味蕾(みらい)で感じます。味蕾はその字の如く、味を感ずる細胞が蕾のように集まったもので、7000個ほどあるそうです。驚くべきことに、5つの基本味を感ずる細胞は別々です。つまり、甘味細胞、うま味細胞、苦味細胞、酸味細胞、ナトリウム細胞(塩味細胞)があります。これらが50~100個集まって一つの味蕾が構成されています。味蕾の細胞は約2週間で入れ替わるという再生周期を繰り替えしています。皮膚の細胞に入れ替わり周期が約4週間ですからそれに比べると味蕾の再生周期は早いほうです。この再生において亜鉛が必要とされるため、亜鉛不足の有名な症状に味覚障害があります。亜鉛は味覚の細胞のみならずさまざまな細胞内で多くの蛋白質や遺伝子の機能にとって重要な働きをする大切なミネラルですが、不足している人は多く、成人の60-70%が一日必要量を摂っていないとのことです。亜鉛の充足度は血液検査で判定されます。血清濃度60μg/dL未満が亜鉛欠乏、60-80μg/dLが亜鉛不足、80μg/dL以上が正常です。機会があれば血清亜鉛の測定をし、食生活の見直しやサプリメントの活用につなげるとよいでしょう。  

 昨今、味覚障害はCOVID-19感染の後遺症の一つとしても注目されています。通常の感冒においても味覚障害が起きますが、これらに共通したメカニズムとしてウィルスによる直接の神経障害と免疫反応を介する炎症による障害と考えられています。また、味覚とともに嗅覚の障害がおこると、「風味」も損なわれます。ちなみに味覚はtasteで風味はflavorです。後遺症としての味覚障害にも亜鉛の補充が有効である場合があります。