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前立腺と糖鎖
糖の連なりである糖鎖が蛋白質につくと蛋白質の性質が変わります。その一例がABO式血液型であり、昨年5月30日の本ブログで触れさせていただきました。この糖鎖の違いを応用した前立腺がんに関連する血液検査が最近診療の場で使えるようになりました。
PSA(前立腺特異抗原、prostate specific antigen)の血中濃度は以前から広く利用されている前立腺がんに関する腫瘍マーカーです。PSAは前立腺上皮で作られる蛋白質であり、蛋白分解酵素の仲間です。血中のPSA濃度(血清PSA)が基準値を超えている場合は前立腺がんを疑った検査を進めることになります。一般的には血清PSAの正常範囲は4.0ng/mL以下です。ただしPSAは前立腺がん以外に前立腺肥大や前立腺の炎症でも上昇することがありますので注意が必要です。また、前立腺がんがあっても血清PSAが4.0ng/mL以下の場合があります。血中PSAが上昇している場合はMRIによる画像検査や泌尿器科医による触診などを経て、必要となれば針を刺して細胞を採取する検査(針生検)へと進みます。針生検はがん細胞の有無やがんであった場合の悪性度を調べて治療方針を決定するために重要なものですが、身体的な負担が大きいたため実施に当たっては検査の必要性を見極める必要があります。
前立腺MRIでがんが疑わしいところがあるもののまだ確定的なことが言えず、さらに血清PSAが4~10ng/mLの範囲にあって著明な高値ではない場合に針生検をするかどうかを決めるために他の情報が望まれます。新しいPSAの血液検査は、正常な前立腺からはα2,6結合型シアル酸という糖鎖を持つPSA(α2,6PSA)が多く出てくるのに対して、前立腺がんではα2,3結合型シアル酸という構造に変化した糖鎖をもつPSA(α2,3PSA)が増加することを利用します(PSAレクチン結合分画比、S2,3PSA%)。糖鎖構造の違いによって、レクチンという物質への結合性が異なることに注目した検査方法です。なおPSA関連の検査値としてはPSA全体における結合蛋白質に結合しているPSAの割合(free PSA/total PSA比)や補正式を用いた計算値(PSA densityやprostate health index)などがあります。