新着情報

院長ブログ

聴覚と認知機能

 先日のブログで「耳を大切に」というタイトルで聴覚について触れさせていただきました。ちょうどその頃、昨年(2023年)12月に出版された岩波新書の「耳は悩んでいる」という本を書店で見つけました。この本は岩波新書の「新赤版」としてはなんと2000冊目の記念すべきものでした。岩波新書は1938年11月に赤い表紙の赤版として創刊され、その後青版、黄版、新赤版と装丁を変えてきました。ちなみに1988年には「岩波新書の50年」という本が別冊として出版されています。

 さて、この本は多くの専門家が分担執筆され東京慈恵医科大学耳鼻咽喉科主任教授の小島博己先生が編集されたものです。全体は10章からなり、耳の症状、耳の構造やはたらき、耳の病気、耳の病気の治療や予防などについてわかりやすく解説されています。このうちの第7章で「耳と認知症」が取り上げられています。

 聴覚の低下が認知症のリスクを上昇させることが知られていますが、他のリスク要因に比べてどれだけ重要なのでしょうか。2020年に報告された体系的な文献解析では、難聴、教育、高血圧、肥満、喫煙、うつ病、社会的孤立、運動不足、糖尿病、過度の飲酒、頭部外傷、大気汚染という12のリスク要因が挙げられています。この中で中年期(45~65歳)における難聴の影響が最も大きく、認知症のリスクを1.9倍上昇させるとのことです。また、別の複数の報告では補聴器の適切な使用で認知機能の悪化を抑制できることが示されています。

 難聴と認知機能低下との関係については主に3つの仮説があるそうです。脳における神経細胞の障害が難聴と認知機能悪化の両方を引き起こすという考える共通原因仮説、聴覚が障害されると聴覚から得られる情報が欠けるために他の能力によって処理しなければならないことが増えてしまうという情報劣化仮説、長期にわたる聴覚の遮断が代償的に大脳皮質の再編成を引きおこすと考える感覚遮断仮説です。いずれにしても難聴はコミュニケーションの低下だけではなく、社会的孤立や転倒リスクの上昇などももたらし、これらのことを通して認知機能低下を助長します。 認知症予防のためにも耳を大切にし、聴力低下を感じた時は耳鼻咽喉科でしっかり診察を受けましょう。