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割り算と検査値
「割り算こそが数学の芽だ。」と「数学の世界史」(加藤文元著)という本の始まりにありました。確かに割り算は、割り切れないことや「余り」がでることがあることなど、足し算、引き算、掛け算とは違った面があります。この一文だけでも「目からうろこ」ですが、この芽から始まる数学についてはこれからゆっくり読んでいこうと思います。
さて、診療の中での割り算は?という目で見てみると気になるのはやはり検査値です。割り算はA÷Bですが、診療の場で使う検査値を評価するにあたって、第1にAとBの両方が変わるものと、第2に片方とくにBが変わらないものがあります。前者はAとBの両方が測定値である場合、後者ではAが測定値でBは定数の場合です。第1の例はいくつもありますが第2の例はあまり多くないのではないでしょうか。
第1の例で身近なものはBMI(body mass index)です。これはkgで表した体重をm(メートル)で表した身長の2乗で割ったもので、体格指数とも言われます。理想は22であり、25以上は肥満、18.5未満はやせとされることが多い数字です。この場合の割り算は体重の多寡を身長で「補正」することに使われています。その他にも割り算は「補正」でよく使われます。尿中のカルシウム濃度の「補正」にはカルシウム濃度をクレアチニン濃度で割ることによって行われます。
もう一つの第1の例はバランスを見るための割り算です。高血圧のうち原因疾患が明らかな高血圧を続発性高血圧といいますが、その原因の代表が原発性アルドステロン症です。この疑いがある場合には血液中のアルドステロンというホルモンの濃度をレニンというもう一つのホルモン活性で割って比率を出します(アルドステロン/レニン活性比)。
健康院クリニックの健診で必ず評価するバランスがオメガ3脂肪酸の代表であるエイコサペンタエン酸(EPA)とオメガ6脂肪酸のアラキドン酸(AA)のバランスです。動脈硬化対策の一つとしてこの比率が0.4以上になるよう、栄養指導やサプリメントの調整を行っています。
さて、第2の例、すなわちBが定数である場合の例がインスリン抵抗性を示すHOMA-IRです。インスリン抵抗性とは血糖を低下させるホルモンであるインスリンが効きにくい状態であり、糖尿病や動脈硬化のリスク因子になります。この数値を出すには空腹時血糖とインスリン濃度を掛けてAとし、それを「405」という定数であるBで割ります。通常2.5以上でインスリン抵抗性ありと判定されます。
骨密度の評価で使われる割り算も第2の割り算の例です。我が国(だけ!)の骨密度評価においては測定した骨密度(A)を若年成人平均値(B)で割って得た数値を%で表して用います。骨粗鬆症性骨折がまだない場合はこの数値が80%以上が正常、80~70%が骨量減少、70%以下が骨粗鬆症と判定されます。この診断基準についてはまだ別の機会に触れたいと思います。
「割り算」の観点から検査値を見ると、日頃使っている数値にはさまざまな背景や考えかたがあることを改めて感じます。機会があれば掛け算、足し算、引き算の目でも見てみたいところです。