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院長ブログ

大気と紫外線

 日差しが強い日々、気温の上昇とともに気になるのが紫外線です。夏至(今年は6 月21日)の太陽は最も高く、東京では正午の南中高度は約78度に達し、ほぼ真上から太陽光が届きます。冬至(12月22日)の正午で南中高度は約38度ですから倍以上の差です。太陽からやって来る光は同じでも斜めよりも垂直に当たったほうが一定面積当たりの光は多くなります。

 太陽の高さに加えて、大気の状態も地上で浴びる紫外線に影響します。太陽光を構成する電磁波の一つである紫外線は可視光(見える光)の中で波長が短い「紫」の外側の不可視光(見えない光)であり、軟X線よりは波長が長い電磁波です。紫外線は可視光と電波の間の波長をもちます。紫外線は波長の短いほうから順に、極紫外線、遠紫外線、近紫外線に分けられますが、一般的な紫外線(UV)といえば近紫外線と言ってよいでしょう。近紫外線はさらに波長が短い順にUVC、UVB、UVAに分けられます。このうちUVCはオゾン層などで吸収されるため、地上に届くことはなく、地上に届くのはUVBとUVAです。波長がより長いUVAは皮膚のより深いところまで到達し、真皮での細胞老化をもたらします。UVBは表皮までしか届きませんが日焼けを起こしたり、皮膚でビタミンDを作ったりする紫外線です。

 大気の状態が関わるビタミンがビタミンDです。くる病や骨軟化症は主にビタミンD欠乏によって骨へのカルシウムの沈着が障害されるためにおこる病気であり、骨折、骨の変形、発達障害をもたらします。くる病は産業革命の時代に深刻な大気汚染があった英国の若者に流行しました。一方、極夜があり日照時間が年間を通じて少ない地域に住むにもかかわらずイヌイットにはくる病の発症が少ないことが注目されていました。さらにイヌイットの食事がくる病の改善に役立ったことなどがのちのビタミンD発見につながりました。

 最近、気象庁からこの35年間では紫外線が「非常に強い」レベル以上の日が倍増しているとの発表がありました。その原因として大気汚染の改善による空気中の微粒子の減少が考えられています。空気中の微粒子は工場からの汚染物質以外にも、火山灰や黄砂など自然現象に由来するものもありますが、環境規制の取り組みの成果が出てきたのでしょう。そのことは喜ばしいことなのですが、紫外線対策の重要性が増しています。

 紫外線は皮膚の色素沈着や「老化」をもたらしたり、皮膚がんのリスクを高めたりするのみならず白内障のリスクを上昇させます。紫外線対策には日傘を使うことやサングラスで目を保護することも大切ですが、日焼け止めクリームも適宜使いましょう。日焼け止めクリームの表示にはSPFやPAという用語が使われています。SPF(%で表示)がUVBからの保護の強さを、PA(+の数で表示)がUVAからの保護の強さを示しています。

 日焼けが心配にならない程度の日光でも太陽光によるビタミンD産生の恩恵を得ることができますが、ビタミンDはどうしても不足がちです。ビタミンDを豊富に含む食材(サケやサンマなど)をしっかり取り、必要に応じてサプリメントを上手に利用しましょう。ビタミンDは健康な骨に必要なビタミンとして発見されたものですが、免疫、代謝、筋力、ホルモンなど、さまざまな面で重要な働きをするビタミンです。

 紫外線から体を守ることに加えて、それに伴って足らなくなるものを補うことも紫外線対策の一部と言ってよいでしょう。