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院長ブログ

ブドウ糖のみぎひだり

 久しぶりに「紙の」国語辞典(新明解国語辞典)を使う機会がありました。電子辞書と違って情報の重さを手に感じたり、目的とする言葉以外の見出しが目に入ってきたりと、当たり前のことが新鮮に感じられました。普段使っている言葉がどのように説明されているかと思い、「左」を引いてみたところ、その第一の説明は「アナログ時計の文字盤に向かった時に、7時から11時までの表示のある側」とありました。時計が発明される前は?と思い、広辞苑を引くと、「南を向いた時、東にあたる方」とあり、古事記の例文も引用されていて納得しました。ついでにロングマン現代アメリカ英語辞典でleft(左)を引くと「on the side of your body that contains your heart」(心臓がある方)となっています。確かに内臓逆位の頻度は非常に低いものです。

 左右の説明にはいろいろあるようですが、左右によって決められることも多種多様です。その一例がブドウ糖の左右です。ブドウ糖(グルコース)は6つの炭素からなる分子ですが、極めてまれな例外を除いて自然にあるブドウ糖は「右」のブドウ糖です。この「右」とはある方法(フィッシャーの式)でブドウ糖の化学構造式を書いた時に特定の水酸基(-OH)が「右」にあることを示します。これがD-グルコース、「左」にあるのがL-グルコースです。D-グルコースを鏡に映すとL-グルコースの形になるため、これらは鏡面異性体と呼ばれる関係にあります。L-グルコースはブドウ糖が代謝される時に最初に働く酵素が反応できないため、エネルギーとして使われることも脂肪などへの変化もできません。一方、甘みはあるそうです。Dはラテン語のdexter、Lはlaevusの頭文字に由来します。

 D型とL型はアミノ酸にもあります。正常のアミノ酸を構成するのはL型ですから、ぶどう糖とは逆です。近年、D型アミノ酸、特にD-アスパラギン酸が老化した眼の水晶体や脳などに見いだされたことで注目されました。

 化学系の辞書であれば「右は自然界のブドウ糖をフィッシャーの式で書いた時に水酸基がある側、左はその逆」とも説明できそうです。