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“肥満”細胞と花粉症
また花粉症の季節がやってきました。花粉症の症状であるくしゃみや鼻水などは、主に肥満細胞という細胞から放出されるヒスタミンによるものです。花粉症の治療薬としてまず使われるのがヒスタミンの作用をブロックする抗ヒスタミン薬であるのはこのためです。肥満細胞は白血球の仲間で、その起源をたどると骨髄の造血幹細胞に達します。造血幹細胞から白血球系細胞の一つとして肥満細胞の元になる細胞(前駆細胞)ができ、血流に乗って粘膜や皮膚に到着し、そこで肥満細胞になります。肥満細胞は血液中を流れているのではなく、粘膜や皮膚といった組織内にいる細胞です。顕微鏡でみると塩基性(アルカリ性)色素で染まる顆粒(酸性プロテオグリカンを含む顆粒)が充満していて、まさに“太った”細胞です。
さて、この細胞は当初“太らせる細胞”という意味を込めて1878年に命名されました。命名者はドイツのエールリッヒ先生です。細胞内に多くの顆粒を持つこの細胞は周囲の細胞に栄養を与えて養っているかのように見えたため、ドイツ語で家畜を肥育することを意味するMastと細胞を意味するZelleを合わせてMastzellenという名前ができたそうです。これが英語のmast cellになりました。日本語では肥満細胞とも、マスト細胞とも呼ばれます。肥満細胞がまわりの細胞に栄養を与えるとは考えられていませんが、大きな影響を与えていることは確かです。
肥満細胞の表面には免疫グロブリンのIgEを結合させる装置(レセプター)が並んでいます。花粉など特定のアレルギー源(アレルゲン)と反応するIgEがこのレセプターに付いた状態が「感作」した状態と言ってよいでしょう。そこにアレルゲンがやってくるとレセプターに結合しているIgE同志が橋渡しされます。その結果肥満細胞が活性化されてヒスタミンをはじめとする活性物質を含む顆粒が放出されます。ヒスタミンがくしゃみや鼻水をもたらすのですが、さらに症状が鼻閉へと進んだ場合にはヒスタミン以外の物質(ロイコトリエンなど)が関わっているため、治療薬の選択が異なってきます。また、IgEがレセプターに結合することを抑える薬も使えるようになりましたが、他の治療では効果が不十分な重症の方などに使われます。花粉症の治療薬は症状や重症度によって使い分ける必要があります。最近は良い抗ヒスタミン薬を薬局で入手することできますが、うまく対処できない場合は医療機関を受診しましょう。もちろん、花粉飛散時期のマスク着用や帰宅時の手洗い、うがい、衣類についた花粉をなるべく家の中に持ち込まないことなどによる予防が大切です。